大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟家庭裁判所 昭和60年(少)1147号 決定 1985年7月29日

少年 G・R子(昭45.6.2生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、家庭内不和が原因で帰宅を拒み、友人宅を泊り歩く状態が生じたため、昭和60年3月末より養護施設へ入所していたもので、新潟市立○○中学校3年に在学中のものであるが、施設内で粗野な言動等があり、注意されると反抗的な態度をとることが目立ち始め、同年6月16日保母に反抗して夜間施設内をとび出し、児童相談所で一時保護されるに至つたが、同月30日年少のA子と一時保護所の窓から無断外出し、同年7月4日に保護されるまでの間、ゲームセンターで知り合つた年長のB(暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、傷害、強制わいせつ、窃盗の非行歴があり、保護観察処分歴がある。)及びC(窃盗、住居侵入等の非行歴が多数あり、保護観察中であつて、かつ、係属中の事件により当庁において試験観察中のものである。)と行動を共にし、昼間はゲームセンターで遊んだり市内の繁華街を徘徊するなどし、夜間は前記B宅等に泊めてもらつて過ごし、この間Cが関係を持つ市内の暴力団事務所を訪れたこともあるほか、少年は加わらなかつたがB、C、A子がいわゆるシンナー遊びをした事実もあり、さらに保護された同年7月4日の夜間再び一時保護所の窓から無断外出し、たまたま車で通りかかつた年長の男性と行動を共にしてホテルに宿泊し、翌日保護されたものであつて、保護担当者である養護施設の正当な監督に服しない性癖があり、犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、このまま放置するときは、勝気で、批判的な相手に対しては反抗的になり易く、反面感情的に不安定で、受容的な相手に対しては依存的になる傾向の強い性格や環境(後述するとおりの理由で少年は家庭を強く嫌つており、養護施設での適応も困難である。)に照らして、将来家出を繰返し、金銭に窮して窃盗などの財産犯をおかす虞れがある。

(法令の適用)

少年法3条1項3号イ、ハ

(処遇事由)

1  少年は、3人姉妹の二女として新潟市内で出生したが、母が精神異常(婚姻前から発症し、入院治療を繰返しているが、病名は躁病、非定型性精神病ともいわれ、明らかでない。)で入退院を繰返したのみならず、幼児期の少年を虐待する行動を示したため、生後間もなくから小学校を卒業するまでの間ほとんどを養護施設で過ごした。その後、中学入学期に、退院していた母の強い意向により家庭に引取られ、新潟市立○○中学校へ通学したが、家庭内では、母が姉のみを可愛がり、少年や妹に厳しく当たるという差別的な取り扱いをし、少年に対し、叩いたり食事をさせないで玄関先に立たせるといつた体罰を加えることも多く、そのため少年において母を恐れ、嫌う気持が強まつていつた。そして中学2年在学中の夏には、1か月前から入院していた精神病院を一時帰宅した母に、掃除の仕方が悪いとの理由で厳しく折かんされたのがきつかけで家をとび出したことがあり、やがて帰宅したが今度は姉から外泊先を詰問され叩かれたことで再び家出し、児童相談所で一時保護された後帰宅するということもあつた。

少年の不適用症状は、本年2月ころ、やはり入院中の病院から一時帰宅した実母に従前のような虐待を受けたことがきつかけとなり、いわば我慢の限度に達したという形で噴出し、家庭内においては家事をすべて少年にさせる姉への反発が顕著となり、学校内においても不良グループの生徒との交遊、授業妨害等が見られるようになつた。そして姉との喧嘩が原因で帰宅を拒み、友人宅を転々とする事態が生じたため、再び児童相談所において一時保護され、3月末、少年の希望もあつて中学入学前に生活していた養護施設へ入所することになつたが、入所後の施設内状況は前掲のとおりであり、入所に伴い転校した中学校においても教師に対する反抗がみられた。

2  少年の資質面を見ると、鑑別所内検査ではIQ130と知能は極めて高く、○○中学校在学中の学業成績も全教科すぐれており、知的には優れた資質を有している。

また、性格、行動傾向については、元来勝気で負けず嫌いの面があり、また施設内での生活が長く、実母の愛情を感じられなかつたためか、愛情欲求が強く、周囲から受容されようと努めて自分を押えたり、同調的な態度を示すことも認められる。2年間在籍した○○中学校において、前示のように本年2月以降の不適応行動を生ずるまでは、「温厚で内気、責任感が強く生活態度は真面目である」旨の評価を受けているのは、少年の自制心、自律心の強さをうかがわせる。しかし、家庭内における不遇な状態が続いたことに加え、思春期の不安定な心性も作用して、本年2月以降は少年の内部でこの自制も限界に達したという気持が生じ、大人に対する不信感から拒否的、反抗的態度をとることが顕著となり(しばしば拒食、黙秘の態度で現れる。)、反面、受容的相手に対しては距離を置かずに依存的となる傾向が強まつている。本年2月以降の少年の問題行動の理由について、少年自身は審判時、家庭における不満のうつぷん晴らし、施設内での被差別感による反抗、少年の心情を無視して行動する保護者や関係機関への不信等を述べている。

3  少年の家庭環境は前述のとおりであるが、家庭内における関係を調整するべき立場にある父は、母の感情的激昂を恐れて母子関係に介入できず、結局少年の行動については児童相談所等関係機関に頼る姿勢に終始している。そして少年は、家族を「姉と差別し、すぐ叩く」母、「自分勝手で家事は全部自分に押しつける」姉、「すぐ他に頼る」父と見て、いずれをも嫌い、拒否する姿勢が強く(妹は養護施設入所中)、審判時も、再三にわたり家庭への帰住を拒む意思を表明している。

なお、母は7月25日に症状軽快により退院しており、少年の家庭への引取りを強く望んでいるが、審判時の供述内容や態度からは、少年が家庭を嫌う主要な原因が自己の少年に対する養育態度にあることを自覚している様子はうかがわれなかつた。

4  そこで、少年に対する処遇であるが、少年はこれまで非行歴が全くなく、一時保護所からの無断外出中も仲間がしたシンナー遊びに少年のみが加わらなかつたことにみられるように、現時点における規範意識のくずれ、反社会的傾向も極めて微弱なものであり、基本的生活習慣も身についていることや、知的能力も高いことから、少年を受容する安定した生活の場さえ与えられれば、将来の非行のおそれはほぼ解消するのではないかと思われる。しかし、少年の家庭は前述のとおりであり、従前生活していた養護施設に対しても不信感から来る少年の拒否感情が極めて強く、家庭や同施設での生活では再び家出を繰返し、前記非行事実に示したようなぐ犯事実を生ずる結果が明らかであり、他に適切な社会資源もない現状に照らせば、この際、少年に安定した生活の場を与えることを主眼として教護院へ送致するのは止むを得ないと考える。今後の少年に対する指導としては、少年において周囲に対し被差別感、不信感を抱き拒否的言動をとる傾向が顕著なことから、いたずらにその非をただすことなく、受容的態度で接することにより、少年の感情の安定を図るとともに自棄的態度を取り除き、本来ある自律心、統制心を助長し、高い知的能力を生かす方向が望まれる。

よつて、少年法24条1項2号により主文のとおり決定する。

(裁判官 三代川三千代)

〔参考〕少年調査票<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例